○研究概要
当研究室では、ソフトウェアの研究、特に、オペレーティングシステム(OS)を便利に使うためのソフトウェアや、OSに新機能を入れる研究を行っています。新機能としては、特にセキュリティに注目し、コンピュータウィルスやワーム、Webアプリケーションへの攻撃等からの防御システムを開発し、実証実験を行っています。
研究の3本柱は、(1) 仮想化技術、(2) セキュリティ、(3) インターネットシステムの基盤ソフトウェア、です。
仮想化技術とは、CPU、メモリ、ディスクなどの計算資源を仮想化・多重化することで、Windowsの上で別のWindowsやLinuxを動かしたり、1個のOS上で100個の仮想的な環境を立ち上げたりする技術です。
つまり、1つのOSの上で次々と「アプリケーションとしてのOS」を動かすことができます。仮想化技術により、複数個のコンピュータのOS上で処理していたプログラムを一個のコンピュータで処理できるようになり、必要なコンピュータの数を減らすことができます。他にも様々な種類のOSのためのソフトウェア開発等で仮想化技術は力を発揮します。この技術は近年、極めて重要な研究分野となっています。
セキュリティに関しては、認識済みのウィルスパターンに合致するかでウィルスかどうかを判断する、いわゆるパターンマッチングではない手法でウィルスを撃退する方法を研究しています。具体的には、プログラムの動き(ふるまい)自体を検知・解析することにより、ウィルスかどうかを認定するシステムを開発しています。この技術は、パターンマッチングにひっかからない新種ウィルスを認識できるだけでなく、本人になりすます、いわゆる「なりすまし」の検出にも役立ちます。
インターネットシステムの基盤ソフトウェアの研究とは、インターネットサーバおよびその支援システムの研究です。現在のWebサーバなどのサーバシステムの多くは、そのシステムを動かしているコンピュータが障害や停電で止まると、サービスを提供できなくなります。 そこで、インターネットのサービスを地理的に分散した複数のコンピュータで提供する方法を研究中です。複数のコンピュータによる障害などの問題への対策は古くからありますが、本研究では、仮想化などの分野における最新の成果を用い、効率的に問題を解決する点に特徴があります。
本研究室では、現実の世界と密接につながっている研究を行っています。実社会で必要とされている研究を行っているという意義と責任を感じます。そのために、5年程度で研究の結果を世に問い、できれば何らかの形で実用化されることを目標にしています。ものづくりと結びつけることを重視し、当研究室で開発したシステムを実装し、実証実験を行ったりして、社会の中で実際に使ってもらうことを常に念頭に置いて研究を進めています。
○今後の展開
コンピュータの研究は、要素技術をひとつひとつ積み上げていくことが大切です。今後は、こうした要素技術に遡って、仮想化技術、セキュリティ、OS、システムソフトウェアの研究を続けていきたいと思っています。現在、いくつかの大学と共同研究を行っていますが、今後は、こうした分野に興味を抱く企業との連携も視野に入れていきます。プロジェクトで開発されたソフトウェアをオープンソースで公開するなどの形を通じて、成果を世界中の人々に利用してほしいと夢見ているところです。
○学生へのメッセージ
卒業論文や修士論文を書く研究においては、自分の現在の実力よりも少し高い目標を立て、その目標に向かって着実に努力し、一つの仕事をやり遂げてください。実用的なシステムを開発すること、既存システムに施した改良の有用性や性能をしっかりと評価すること、斬新なシステムやプロトコルを設計することなど、研究には様々な方向がありますが、自分の好きな分野で大いに力を発揮してください。自分は無限の可能性を持っており、いくらでも成長できると信じてください。
どういう研究をやるにしても、試行錯誤すること、足踏みすること、望みの実験結果が得られないことは、いくらでも起こります。うまくいかないときでも、データを集めて分析し、問題の本質を考え抜き、工夫を続けるうち、素晴らしいアイデアを思いつくことがあります。そして、研究をどう進めていくかを悩み考えたり議論すること自体が、自分を研究者・技術者として成長させてくれます。一つの山を越え、研究成果が論文やソフトウェアなどの形で実を結んだら、大きな自信が生まれてくると思いますよ。